2022.06.08

就活の制服と性表現

さとうまなみ

性表現、という言葉をご存知でしょうか?セクシャルマイノリティの方であれば知っている方も多いかもしれませんが、詳しくない方の方が圧倒的に多数だと思います。
人間の性別には、区分が4つあります。

  • 生まれ持った性
  • 心の性(性自認)
  • 恋愛対象としての性
  • 身なりや口調で表す性(性表現)

僕自身、専門学校に入るまでは前の3つ(生まれ、性自認、恋愛対象)の性しか知りませんでした。僕は「女性ではない」という自認はあれど、「男性である」ほどでもないという感覚がありました。そんなこと考える方が面倒臭いし、どうでもいい、決めたくない、と言った方が正しいです。それでも定義をするとすれば、Xジェンダー(≒中性、真ん中の性)でしょうか。
だからこそ、性表現という言葉を知り、「性表現が男性である」ことがこんなにも自分にしっくり来るのかと驚きました。

女性だと思われることへの抵抗感

僕が髪を切ったのは中学を卒業してからです。同じ高校に進学する友人はいなかったので、地元で何かを言われる必要のないその時期を選びました。
高校に制服の指定はありませんでした。着ても着なくてもよかったのです。それでも、毎日私服を選ぶことが面倒で、入学した当初は制服を着て登校していました。
性的違和をそこまで感じなかったのは、心の性が完全な男性ではないからです。毎朝の悩みの種が消えるのなら寧ろ歓迎とまで思っていました。
その日も何事もなく下校し、電車が地元の手前の駅に着いていました。その駅は住宅地が近く、乗客がぞろぞろと降りていく駅でした。
それでも座席には余裕があったので、少しゆったりと座っていました。
「女が足を広げるな!はしたない!」
人びとが降車していく中で、誰かが発したその一言を今でもはっきりと覚えています。
メンズのヘアカットをお願いし、通学バッグは紺のシンプルなものを選んでいました。女性は骨格的に足を広げづらいようなので、肩幅程度に足を開いてみることを意識的に行っていました。この頃から、性表現は男性でした。
けれど胸元にリボンをつけ、チェックのスカートを履いていた僕は、周りから女性として見えていたことを知りました。
当たり前ですよね。女子高生の制服を着ているのだから、女として扱われて当然です。けれどその時は、周囲に性別を決めつけられたことが衝撃でした。
着るだけで性別を宣言してしまうような服だったことを、そんな役割を担う可能性がある服が存在することを知り、自分には合わないのだと痛感しました。それ以来3年間、卒業式でさえ制服は着ませんでした。

それでも、セクマイを表現する勇気はなかった

僕は性表現は男性ですが、

  • 戸籍が女性であること
  • 心の性は男性でないこと
  • セクシャリティを細かくオープンにする必要がある職業ではないこと

以上から、女性として就活を行いました。
就活に関連するイベントは殆どオンラインで私服OKでしたが、一度だけオフライン及びリクルートスーツを着用して伺う、最終面接がありました。
女性のリクルートスーツのセットと言えば、ジャケット、シャツ、スカート若しくはパンツ、ストッキング、パンプスなどが挙げられるでしょうか。
ステレオタイプな服を着て就活をすること自体に然程抵抗はありませんでした。オフィスカジュアルに該当するような衣服を所持していませんし、そもそも服を選ぶことが苦手です。もっと沢山のことで頭がいっぱいになる面接が控える中で、考えることが減るのはとても楽です。
当たり前のことですが、女性はスーツを着用する時、ネクタイをつけられません。同じく革靴も、靴下も履けません。
女性がネクタイを用いることは、お洒落に見えてしまっていけないのだと、進路担当の先生が仰っていました。
面接にファッションはいらないというセオリーの意味が、いまはよく分かります。
全く知らない人のことを、性別や世代などでどんな人だろうかと予想したくなってしまうのは、相手への警戒を解きたいという意識(=無自覚に、相手を受け入れようとしている)からだと考えています。
だから、女性であるはずなのにネクタイをし、革靴を履いていると、混乱してしまうのだと思います。学生への物差しに余計な印象が加わってしまうリスクです。
今までの面接を踏まえ、最終面接官の方は50〜60代と予想しました(実際そうでした)。
その世代の方々の中で、トランスジェンダーの認知はまだしも、Xジェンダーを認知している方は少ないのではないかと思います。戸籍が女性である僕が、性表現を男性とした時に招く混乱は、大事な新卒切符のためにあってはいけないものだと思いました。
また、この一連の考えも、先ほど述べた「全く知らない人のことをある程度予想し、警戒を解きたい(受け入れてほしい)」という一心です。
僕は会ったこともない面接官のことを、「セクマイに詳しくない世代で、且つセクマイには詳しくない」という予想をしました。実際はセクシャルマイノリティ当事者だとしても、セクマイが少数者である限り、確率的に安牌を取ってしまうのです。
これは差別でもなんでもなく、考慮です。
だからその日は、戸籍も表現も女性ですという顔をして、一日過ごしていました。会社のみならず、電車も、カフェも、歩いている瞬間も。
結局、最終面接には落ちてしまいましたが、その後全て私服で面接をしていただいた会社から内定をいただきました。少しでも自分らしくいられた会社に身を置けることが今は幸せで、楽しみの一つです。

  • 就活

さとうまなみ

フロントエンドと写真が好きなアイドルおたく

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